インダストリー4.0とは?活用事例から日本での課題まで分かりやすく解説

公開日:2022.08.31

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インダストリー4.0とは、2011年にドイツで提唱された考え方であり、製造業の在り方を大きく変える可能性がある産業政策のことです。日本でも大企業を中心に推進され、今後ますます普及することが期待されています。

本記事では、インダストリー4.0について詳しく知りたい方に向けて、インダストリー4.0の基本的な考え方や、各国の事例、社会に与える影響、日本における課題などを詳しく解説します。

この記事を読めば、インダストリー4.0についての基本的な知識を得られるはずです。ぜひ最後までお読みください。

インダストリー4.0とは?

まず、インダストリー4.0とはどのような概念なのか、基本的な部分について解説します。

インダストリー4.0の基本的な概念

インダストリー4.0とは、2011年にドイツ政府が提唱した産業政策のことで、「第四次産業革命」と呼ばれます。産業革命というフレーズは、蒸気機関などが発明された第一次産業革命に由来しており、第二次産業革命は石油・電気による重工業、第三次産業革命はコンピュータによるイノベーションを指します。

インダストリー4.0の中心にあるのは「工場のスマート化」です。工場のスマート化とは、工場で稼働する機械や作業員などをネットワークに組み込むことで、製造業のプロセスをより高速かつ効率的にすることを目指す取り組みのことです。

さらに、インダストリー4.0には生産現場から得られる多様なデータをインターネット経由で収集することも含まれます。こうしたデータは、作業の遠隔監視を行ったり、業務改善に向けた検討材料にしたりと、さまざまな用途に活用することが可能です。インダストリー4.0に関わるテクノロジーは多岐に渡りますが、特にIoTと密接な関係にあるといえるでしょう。

インダストリー4.0とIoTとの違い

インダストリー4.0とIoTは同じ文脈で使われることが多いため、それぞれの違いが分かりづらいという方もいるでしょう。

先述の通り、インダストリー4.0とIoTは密接に関係しています。IoTは「Internet of Things」の略称であり、日本語では「モノのインターネット」と訳されます。IoTという言葉が一般的になる以前は、インターネットは主にコンピュータ同士や携帯電話をつなぐ技術でした。

しかし、徐々にインターネットでつながるものがセンサーやカメラへと広がっていき、あらゆるモノがインターネットにつながることが当たり前になったのです。こうした技術を総称してIoTと呼びます。

一方で、インダストリー4.0はIoTを活用して工場にあるさまざまな機器をインターネット経由でつなぐことにより、工場のスマート化を実現しようとする考え方です。IoTが技術そのものを指すのに対し、インダストリー4.0はIoTを使ったイノベーションを実現しようとする思想である、と理解するとよいでしょう。

諸外国のインダストリー4.0

インダストリー4.0は、すでに諸外国で推進されています。ここでは、ドイツ・アメリカ・中国を例に紹介します。

ドイツの事例

先述の通り、インダストリー4.0はドイツで生まれた考え方です。ドイツにおけるインダストリー4.0には2つの大きな特徴があります。

1つは、政府が主体となって取り組みを進めていることです。具体的には、「プラットフォーム・インダストリー4.0」という組織を政府主導で整備し、毎年「デジタルサミット」という会議を主催しています。

もう1つの特徴は、ドイツ国内の多数を占める中規模企業の支援を重要視していることです。ドイツには「ミッテルシュタント」と呼ばれる世界的に高い技術力とシェアを持つ中規模企業が多数存在し、製造業の中核となっています。

政府が主体となってミッテルシュタントを強力に支援することで、国全体にインダストリー4.0を普及させようとしているのです。

アメリカの事例

アメリカでのインダストリー4.0の取り組みは「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)」と呼ばれます。

IICの大きな特徴は、政府主導ではなく非営利のメンバーシップとして運営されていることです。国による制約もないため、アメリカに留まらずインダストリー4.0の本場であるドイツをはじめ、中国のファーウェイや日本の日立製作所、トヨタ自動車といった企業も参画しています。

IICに参画する企業は多種多様です。ドイツのインダストリー4.0は製造業が中心ですが、IICには医療、エネルギー、物流といった製造業以外の業種も含まれます。

IICは、業種や国籍にとらわれないオープンな枠組みの中で、産業全体のIoTを加速していくことを目指しています。

中国の事例

中国では2015年に「中国製造2025」という産業政策が掲げられました。

中国製造2025は5Gや半導体などの次世代情報技術をはじめとした10の重点分野と、23の品目を中心に製造業の進化を目指すものです。

中国製造2025は中国共産党が主導するため、ドイツと同じく政府主導の産業政策といえます。ただし、2049年の建国100周年を迎えるまでに「世界の製造強国の仲間入り」を目指していることからも、よりトップダウンの色合いが強い取り組みであることが分かります。

日本におけるインダストリー4.0

日本においてもインダストリー4.0に関する動きはありますが、かつては一部の大企業が個別に取り組むレベルのものでした。しかし、2017年に「Connected Industries」が提唱されて以降は、日本におけるインダストリー4.0も政府主導の取り組みが進められています。

「Connected Industries」とは

「Connected Industries」とは、2017年に経済産業省によって提唱された概念です。これにより目指すべき産業の在り方が明確にされ、政府としてもインダストリー4.0を推進する姿勢が示されました。

「Connected Industries」にもIoTの考え方が含まれています。ただし、モノ同士のネットワーク接続に留まらず、人とのつながりも重視していることが大きな特徴です。テクノロジーによって人の能力を引き出し、人材を育成することまで視野に入っているのです。

実際に「Connected Industries」のコンセプトには「人」というキーワードが多く含まれていることからも、人とモノのつながりが重視されていることが分かります。

「Connected Industries」の具体的な取り組み分野には、「自動走行・モビリティサービス」、「ものづくり・ロボティクス」、「バイオ・素材」、「プラント・インフラ保安」、「スマート・ライフ」の5分野があります。代表的な事例として、「自動走行・モビリティサービス」の分野では「空飛ぶクルマ」の実証実験などが進められています。

近年の動向

2022年現在、空飛ぶクルマは2025年の大阪万博に向けて開発が進められています。また、スマート・ライフの分野では自治体と連携してIoT家電からデータを収集し、生活の改善に役立てる動きもあります。

日本の製造業は高い現場力を強みとする一方で、産業横断での標準化やデータの利活用には消極的な傾向がありました。今後は、ロボティクス等の日本に強みがある分野を皮切りに、現場のリアルデータを活用する機運が高まっていくでしょう。

実際に、データ連携、標準化の実証実験を補助するための予算が組まれるなど、「Connected Industries」に対応した政府の動きも見られます。

インダストリー4.0で何が実現するか

ここからは、インダストリー4.0で実現するイノベーションを具体的に解説します。

製造業の自動化

インダストリー4.0が実現するイノベーションの中で、最も代表的といえるのが工場のスマート化です。

工場の自動化自体は、長年改善が繰り返された分野であり、日本でも自動車産業を中心に早くから産業ロボットなどが導入され、効率化が進められてきました。一方で、自動化の方式が部分最適化され、工場や工程同士のつながりがなく、全体を通した連携がしづらいという課題もありました。

しかし、IoTという技術が出現したことにより、工場に存在するあらゆる機器からデータを収集できるようになりました。これによって機械の稼働状況をはじめとした生産に関わる情報を集め、分析し、遠隔操作で問題なく稼働させられるケースが増えています。

まだ完全な自動化には課題がありますが、生産工程の中で徐々に人が介在する割合が減っていることも事実です。今後は技術の進歩に伴い、完全に自動化された工場が現れることでしょう。

データによる意思決定

IoT技術の発展により、従来よりも多様なデータを即時に集められるようになりました。その結果、従来は人の経験や勘に頼っていた高度な判断を、より早く正確に下すことができるようになります。

例えば工場の自動化においては、工場の各所に設置されたセンサーがリアルタイムで稼働状況を把握し、現場に適切な指示を下すことができるでしょう。従来は現場からの電話や現場に直接赴くことでしか得られなかった情報を即時に入手できるため、業務全体のスピードアップにもつながります。

また、一定の条件下では現場から収集したデータをもとにシステムが自律的に判断し、機器の稼働状況を調整することも可能になっています。IoTを活用することで集まった多種多様なデータが、人の意思決定を強力にサポートするとともに、工場の自律的な稼働も実現するのです。

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インダストリー4.0が社会に与える影響

IoT技術の発達と普及によって、より広い分野でデータ利活用が進んでいます。また、インダストリー4.0の概念が社会全体に普及することで、従来の産業構造が大きく変わることも考えられます。ここからは、インダストリー4.0が社会に与える影響を見ていきましょう。

データ利活用の活発化

先述の通り、IoTによって従来よりも鮮度の高いデータをすばやく解析し、高度な判断を行うことが可能になりました。実際に、業界や産業を横断したデータ利活用の事例は年々増えつつあります。

工場の自動化以外でよく見られるのが、車両の移動データを業界横断で活用する事例です。車両の移動データは、物流以外にも道路の劣化状況や交通量の調査といった行政分野での活用も期待できます。また、地図データの更新にも役立っています。

このように、車両の移動データだけでもさまざまな活用事例があり、その数だけ新たなビジネスを生み出す可能性があるのです。インダストリー4.0の中でIoT技術が発達していくことにより、あらゆる業界や業種を横断したデータ利活用が進んでいくでしょう。

異業種間の連携と競争激化

インダストリー4.0の概念の普及は、従来の産業構造にも変化をもたらす可能性があります。例えば、従来は関係性の薄かった製造業とヘルスケア業界が、「作業員の健康管理」という分野で連携し、双方でデータのやりとりを開始するかもしれません。

一方で、業界をまたいだ競争も激化するでしょう。具体例として、トヨタ自動車とアップルの事例が挙げられます。従来はiPhoneなどを開発するIT企業であったアップルが、Apple Carの開発を表明し、自動車生産にも参入しています。

こうした動きは、IoT技術の発達により自動車にも数々のセンサーが取り付けられ、パソコンやスマートフォンといった電子機器に近いものになったことで、自動車業界とIT業界の垣根がなくなった結果と考えられます。

労働者に求められるスキルの変化

インダストリー4.0による自動化が進むことにより、特に製造業に関わる労働者に求められるスキルが大きく変わる可能性があります。

従来、工場における現場作業員には、手順通りに業務を進めることが求められていました。しかし、工場におけるIoT化が進むことで、定型的な作業はシステムによって自動化されていくでしょう。

これにより、工場の作業員に求められるスキルは、現場から集めたデータに基づく判断や指示など、より高度なものに変わっていくと考えられます。また、ITに関する知見が求められるケースも増えていくでしょう。

日本でのインダストリー4.0実現に向けた課題

政府が「Connected Industries」を提唱したことを皮切りに、日本でもインダストリー4.0の取り組みが進められてきました。しかし、未だ多くの課題を抱えていることも事実です。最後に、日本におけるインダストリー4.0の実現に向けて、今後期待されることを紹介します。

中小企業への普及

日本におけるインダストリー4.0は大企業を中心とした動きに留まるケースが多く、多数派を占める中小企業にまで普及しているとはいえない状況です。

一方、インダストリー4.0の発祥国であるドイツでは、中規模企業であるミッテルシュタントを政府が支援するというシステムが機能しています。

中小企業では、IoTに必要なセンサーなどの機器を導入するための設備投資に踏み切れないケースが多いでしょう。そのため、日本においても補助金を創設するといった政策を通して政府がバックアップする必要があります。

通信環境の整備

IoTを通したインダストリー4.0を実現するためには、データを収集するための設備が必要です。

例えば工場の自動化を目指すのであれば、機械の稼働状況を収集するためのセンサーが必須です。さらにリアルタイムの稼働状況を画像から解析するのであれば、インターネットにつながるカメラも必要になるでしょう。このように、利活用できるデータを収集するためには、データの種類に応じてさまざまなIoT機器が必要になります。

既存の製造ラインや設備がある場合は、IoT機器を導入することによるコストの増加や業務プロセスの変化は避けられないため、一筋縄にはいかないことが多いと考えられます。また、中小企業においては、経営体力の面でIoTに関する設備投資が不十分になりがちな点も見逃せません。

サイバーセキュリティへの対応

IoT化が進むということは、それだけインターネットに対して開かれた環境になるということであり、サイバー攻撃の対象になりやすくなることを意味します。近年はセキュリティの脆弱性を突いた不正アクセスなどの被害によって、企業活動に甚大な被害を及ぼす事例も多発しています。

ひとたびサイバー攻撃を受けると、損失が発生するだけではなく、企業ブランドへの悪影響も避けられません。インダストリー4.0を実現するためにはIoTが不可欠ですが、同時にサイバー攻撃に対する備えも重要になるのです。

まとめ

インダストリー4.0はドイツを発祥とする産業政策であり、IoTを中心とした製造業の高度化を目指すものです。2011年にインダストリー4.0が提唱された後、その影響を受けてアメリカ、中国、日本といった国々が独自の産業政策を掲げました。

実際にインダストリー4.0が実現することで、製造業の自動化、データによる意思決定の高度化など、これまでの産業構造を変えてしまうような大きな影響があるでしょう。また、インダストリー4.0に伴うIoT技術の発展によりデータ利活用が活発化し、あらゆる産業で連携と競争が発生することが予想されます。

日本においても、政府が人とモノのつながりを重視する「Connected Industries」を掲げ、各所で取り組みが進んでいますが、中小企業への普及、セキュリティリスクへの備えなど課題も数多くあります。

今後も日本でインダストリー4.0を実現するための取り組みが進んでいくか、政府や企業の動きを注視していく必要があるでしょう。

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