「VUCA・イノベーション時代」を生き抜くための採用・育成戦略 「エンジニア不足」、「自律型人材の育成」に人事はどう対応していくべきか

2023年4月1日に、AKKODiSコンサルティング株式会社となりました。本記事は、Modis株式会社当時のインタビューです。

「VUCA」の時代と呼ばれるなか、DX推進や新型コロナウイルスのパンデミックなど、さらに変化が激しく先の見通しが立てにくくなっています。従来の概念が通用しなくなるなかで、企業が生き残るにはイノベーションの実現、そしてそれを支える人材の採用・育成が不可欠です。

今回はオリンパス株式会社で人事改革に取り組む執行役員 ヒューマンリソーシズヘッド(人事・総務担当) 大月 重人氏をお迎えし、「VUCA、イノベーション時代における企業成長に向けた採用・育成戦略」をテーマに、Modis株式会社 執行役員 Products & Cons umer事業本部 本部長 米田 真一郎と対談を行いました。

VUCA、イノベーション時代に企業が直面する人材の採用やエンジニア不足への対応、そして自律型人材の育成など、対談で語られたさまざまな話題についてお届けします。

人材活用に関するお役立ち情報をお送りいたします。

「VUCA・イノベーション時代」に山積する課題を人事はどう乗り越えていけばよいか

米田:本日は、「VUCA、イノベーション時代における企業成長に向けた採用・育成戦略」をテーマに、大月様とお話をしていきたいと思います。
先の見通しが難しい昨今、企業の業務や組織において、どのような変化が生まれ、そこに対してオリンパス様ではどのような取り組みをしていらっしゃるのでしょうか。

大月氏:米中問題やCOVID-19、そして直近でいうと半導体の不足など、現に予測できない事態になっていることを実感しています。
当社では、世界100カ国でオペレーションを行い、グローバルで約3万2000名規模の社員を抱える企業として、日本だけではなく、グローバルに照準を合わせた人事戦略を実行しています。特に「多様性」は重要なキーワードだと感じていますが、そうした人材ポートフォリオマネジメントが、結果的にVUCAに適応しうるものになっているのだと思います。

米田:オリンパス様は、「職務型人事制度」を段階的に導入していらっしゃいますよね。
やはり、グローバルを意識した改革なのでしょうか。

大月氏:2023年の4月には、国内の全社員に「職務型」を導入していきます。
世界を見わたしても、職務型ではない人事制度を取っている国は日本だけです。さらに、不確実性の高い時代にも業務をしっかりと進めていくには、各職種で専門性を高めていく必要があります。だからこそ、職務を前提として報酬を払うという職務型に移行していくことは必然です。

米田:当社も、以前から環境の変化を強く意識して人材の採用や育成に取り組んでいます。
私たちが身を置く人材派遣業界は、雇用の調整弁としての役割があります。特に我々のようなエンジニアリングサービスを提供する会社に求められるのは、技術力。この技術力が特にIT業界では日進月歩であるため、VUCAにかかわらず技術のキャッチアップは常に意識をして、人材の採用やカリキュラムのブラッシュアップをしています。
また、お客さまにサービスを提供するなかで如実に感じるのは、各社が「DX人材」の採用と育成に苦心されているということです。
オリンパス様ではいかがでしょうか。

大月氏:デジタル化は、人事革新という観点でも不可欠であり、当社でも会社を挙げて取り組んでいます。
現在、約3万2000名の社員をサポートするようなHRシステムをデジタライゼーションの一環で構築中です。さらに、DX、エンジニアの強化という視点では、一人ひとりの技術力の向上、イノベーションが生まれやすくなる組織構造への変革、そしてデジタライゼーションによって設計開発を合理化するという技術開発の大改革プロジェクトを実行しています。

「パーパス」、「コアバリュー」に共感する人材を採用するには

米田:VUCA、イノベーション時代における企業成長には、人材の採用戦略にも工夫が必要です。
オリンパス様では、採用においてどのような点を意識していらっしゃいますか。

大月氏:国内では新卒・中途ともに、新たな発想ができる人材を見極めて採用活動を行っています。
特に技術系人材の場合は、技術力のみならずお客さまへの価値提供を考えられる人材の採用が大きなテーマです。

また、もう一つ私たちが非常に大切にしているのは、パーパスやコアバリューへの共感です。当社では、変化の激しい時代を生き抜くために、2019年に経営理念を整備しました。それは、「世界の人々の健康と安心、心の豊かさの実現」というパーパスと、「誠実、共感、長期的視点、俊敏、結束」というコアバリュー。これらは、全世界で大切にしたい価値観です。

海外においては在宅勤務が定着するなかで、例えばアメリカにいながらオリンパス本社の業務をするなど、日本の組織の一員として働く人材を海外から採用することが可能になってきました。人材獲得も日々グローバル化していると実感しています。

米田:ビジョンへの共感、挑戦できる人材の採用については、当社も意識して取り組んでいます。
ただ、「理念に共感する人は、ぜひ当社に来てください」と呼びかけるだけでは、なかなか難しいことも事実です。
オリンパス様では、どのように対応していらっしゃるのでしょうか。

大月氏:まずは、「自社の理念体系や価値観に共鳴する人とはどのような人材か」をしっかりと定義することです。
それから、求める人材を採用するためには、事前の情報発信、採用ブランディングが不可欠です。採用ページのみならず、SNS、企業説明会、そしてメディア発信などあらゆる手法で価値観を対外的に伝えていきます。

特にオリンパスはデジタルカメラの会社というイメージが強かったと思いますが、「グローバルメドテックカンパニー」を目指す医療の会社ですから、その姿を正しく発信するようにしています。

そして、対外的な発信と同時に、社内に対する理念や価値観の浸透・定着も重要です。
社員紹介採用など新たな手法も活用しながら、社員の意識も高める取り組みを行っています。

米田:なるほど。
さまざまな手段で対外的に理念やビジョンを発信して人材を惹きつけると同時に、採用を活用しながら社内の風土改革も推進していらっしゃるのですね。

深刻なエンジニア不足の時代。外部の力を借りることも視野に

米田:採用上の課題について大きなトピックが、エンジニアの不足です。
かなり競争が激しく、いかにアドバンテージを持って進めるか各社が苦心しています。オリンパス様ではいかがでしょうか。

大月氏:エンジニアの人数というよりは、本当に必要なスキル・能力を持つ人材が適切な職務に配置されていないという課題がありました。
そこで、先ほどもお話をした技術開発の大改革プロジェクトでは、必要なスキル・能力を分析して、人材とポジションのスキルを擦り合わせた上で配置。そして魅力的な人事制度によって育成・評価する取り組みを進めています。

ただ、イノベーションの時代においては、結局自前で全てをまかなうことは不可能に近いです。そのため、アライアンスやM&A、直近ではCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を立ち上げるなどして、総合的に対応しています。
外部人材のサービスを活用することも大切ですね。

米田:当社は、通常のエンジニアリングサービスはもちろん、「バリューチェーン・イノベーター」というサービスを提供しています。
これは、コンサルティング力と技術力を備えたエンジニアがお客さまの現場に入り、課題抽出から解決策の提案、そして解決策の実行フェーズまで伴走するというものです。単に技術力を提供するだけではなく、ソリューションを提案するだけでもなく、トータルで実行することにより、人材不足をはじめとする現場の根本的な課題にアプローチしています。

また、オリンパス様でもスキル・能力の分析のお話がありましたが、私たちも全エンジニアの職種とスキルレベルをプロットできるツールを開発しています。このツールを活用して、お客さまに対しても人材リソースの可視化の提案を行っています。
エンジニアのスキルレベルや全社での分布はもちろん、それぞれのエンジニアがどのようなキャリアを描いているのか、育成にも活用できるものです。

不確かな時代を生き抜く「リーダーシップ開発」の重要性

大月氏:企業が戦力の強化を図って成長していくには、採用はもちろん育成の観点も重要ですね。
「コマンドコントロール」と「ミッションコントロール」という言葉がありますが、VUCAの時代を生き残るためには、自分のミッションをちゃんと意識して自律的に動ける社員が増えていけるように環境を整えることが大切だと考えています。

オリンパスでは、この不確かな時代をリードしていけるようなリーダーシップの強化をすべく、「グローバルリーダーシップコンピテンシー」を定め、それを体得できるリーダーシップ研修プログラムの実施を始めています。知識を習得するだけではなく実行力強化プログラムも実施し、全世界で延べ5000人が受講済みとなっています。

米田:リーダーシップ開発も、特にVUCA、イノベーション時代において重要なキーワードですね。
私たちもタレントレビューをしながら、リーダーシップパイプラインを決め、集中的に投資をしています。これは、Modis単体ではなくAdeccoGroup Japan全体で実施しています。

また、DX推進をリードする人材の育成も、今まさに各社が直面している課題です。
当社では、ITリテラシーのアセスメントツールを提供し、DXを推進するうえで必要なスキル・能力、またはそのポテンシャルを持った人材の抽出と配置・育成の支援も実施しています。そして、技術進歩の速さに伴い、求められる技術がマルチになってきていることも最近の傾向です。
当社では、新卒・中途共に豊富な技術研修を用意しています。

大月氏:技術研修について、当社も大改革の過渡期です。
育成においては、研修だけではなく経験学習も大切だと考えています。そのフィールドをどう用意してあげるのか、そしてどのようにアサインをするのかも重視して取り組みを進めています。

米田:人が成長するためには、70%の経験、20%の薫陶、10%の研修が重要であるという「70・20・10の法則」がありますが、経験学習は我々も重視しています。
当社の場合はお客さま先での業務が経験につながるため、エンジニアが成長できるフィールドであるかどうかも意識しながら、お客さまに人材の提案をしています。

社員の自律を促すために必要な「キャリアの選択肢の提供」と「キャリアビジョンの明確化」

米田:先ほど大月様より「自律」という言葉がありました。
VUCAやイノベーション時代において非常に重要なキーワードですが、自律型社員をどのように育成すべきでしょうか。

大月氏:専門性の柱を確立することが、一つの方法だと考えています。
オリンパスでは定期異動を原則廃止して、なるべく本人の希望に沿った経験ができるよう、社内公募制度も活用しながら、各自が専門性を育めるようなキャリア開発をしています。その過程で社員が自律していくと考えています。

もう一つは、先ほどもお話ししたリーダーシップ開発です。
自分で戦略を立てて実行できるようになるために、グローバルリーダーシップコンピテンシーがあり、コアバリューがあります。それを体得して体現するなかで、自律を促しています。
ここで重要なのは、会社に言われたから受けるという姿勢ではなく、興味があるところに自らアクセスして学べるような環境を整えることです。

米田:社員の方に選択肢を持たせることで、自律を促していらっしゃるのですね。
私自身、エンジニアの自律について常々考えているのですが、なかなか難しい問題で明確な解に至っていません。ただ、以前エンジニアのキャリアについて講演をした際、色々なデータを分析して発見したのが、先端技術に従事しているエンジニアの方が、レガシーな技術に従事しているエンジニアよりも自発的に学習しているということです。

もちろん、新しい技術に関わるからこそ学びの機会は増えるのだと思いますが、自分のキャリアビジョンを明確に描いている人ほど、自律的に動けるのではないでしょうか。この仮説のもと、当社では社員のキャリアビジョンを明確にして、そこにベストマッチする業務にアサインしていこうと考えています。
それこそが、人が生き生きと働くフィールドになると信じています。

大月氏:その通りだと思います。
そして、キャリアビジョンを計画し、見通しやすくするためには、やはり職務型人事が大切です。会社から言われたことをこなすのではなく、職務があって、ミッションがあり、そのもとで自律的に動くことができると考えています。

今、米田さんのお話を伺って思ったのは、働き方改革も自律においては重要だということです。
働く場所を問わないことで、どこで何時間働いたのかではなく、成果が重視されるようになります。その結果は当然、与えられたミッションや職務に基づいて評価されます。そうすることも含めて、自律的な社員の育成につながると信じています。

米田:全面的に賛同します。
COVID-19の影響でワークスタイルが大きく変わり、より一層成果を重視するようになりました。そして当社も今まさにジョブ型人事の導入を進めているところで、まさにジョブディスクリプションを考えています。

大月氏:そこは大変なプロセスですよね。
職務型導入をためらう理由の一つは、職務記述書を書くなど実務が大変だということがあると思います。
職務記述書は大事な定義書ではありますが、職務毎に0から大論文のような記述書を書く必要もなく、それこそ「職務のミッション」のポイントが簡潔に抑えられていれば、既存の雛形を基に5、6行のものでもよいと考えています。

VUCA、イノベーション時代を生き抜く上で重要な「チェンジマネジメント」

米田:採用や育成など、さまざまな取り組みのお話を伺ってきましたが、ここで一つ大月様に質問があります。
人事改革は大きな負荷がかかります。そのなかで改革に背を向ける社員も少なからずいるはずですが、どのようにリーディングしていらっしゃるのでしょうか。

大月氏:丁寧なコミュニケーションに尽きます。
職務型ということでいえば、メディアの取り上げ方によっては「職務がなくなればすぐにクビになる」など、正しくない認識をされていることもあります。そういった誤った認識を正しながらコミュニケーションを取り、しっかりと良いところを伝えていくことが大切です。
実際に職務型人事制度の設計自体は短期間でできますが、社員に腹落ちしてもらうには長い時間がかかります。不安も聞きながら理解してもらうことに気をつけています。

米田:「チェンジマネジメント」ですね。
当社でも以前、人事制度を大きく変革した際、大きな波風が立ちました。今思うと、コミュニケーションが不足していたのだと感じています。

大月氏:なかなか日本では文化として根付いていないのですが、チェンジマネジメントは本当に大切ですね。
VUCA時代を生き残るには、人事制度もそうですが、各所で仕事の仕方などコンスタントに変化をしていかねばなりません。そして、チェンジマネジメントの中核にあるのが、正しいコミュニケーションです。

米田:コアバリューに共感する多様な人材の採用、リーダーシップ強化、自律型社員の育成など、本日は大変貴重なお話を大月様から伺うことができました。
本日は、ありがとうございました。

Profile

大月 重人 氏
オリンパス株式会社 執行役員 ヒューマンリソーシズヘッド(人事・総務担当)

日立製作所、GEで人事畑を歩み、日本HPでは人事統括本部長として制度改革を実施。その後資生堂、H.U.グループホールディングスの人事トップとして人事手腕を発揮し、2019年にオリンパスの執行役員 ヒューマンリソーシズヘッドに就任。「真のグローバルメドテックカンパニー」を目指すオリンパスにおいて、約3万2000名規模のグローバル人事面からその一翼を担う。

米田 真一郎
Modis株式会社 執行役員 Products & Consumer事業本部 本部長

2001年、株式会社VSN(現AKKODiSコンサルティング株式会社)にソフトウエアエンジニアとして入社。その後、インフラエンジニアとして海外業務やIoT関連システム設計等のPMを歴任し、2012年よりIT部門1500名を束ねる責任者に。2016年に事業責任者に、2021年にProducts & Consumer事業本部 本部長に就任。

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