デジタルツインとは?何ができるのか事例を交えて分かりやすく説明

公開日:2022.08.31

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「デジタルツイン」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。デジタル技術の発展により、従来は不可能であったことが可能になるケースが増えていますが、デジタルツインもその1つです。

今回は一般的になりつつあるデジタルツインについて、初めての方にも分かりやすいよう基本から解説します。また、今後実務でデジタルツインに関わる方に向けても、デジタルツインの事例や今後の展望について紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。

デジタルツインの基本的な概念

デジタルツインとは、現実世界で集めたデータを、デジタル空間上で再現する技術のことを指します。デジタルツインの「ツイン」とは英語で「双子」という意味であり、現実世界の情報をあたかも双子のように再現することからついた呼称です。

デジタルツインを活用することで、モノや人の動き、地図や図面の情報をデジタル上に再現し、より短期間で高精度の分析や予測を行うことが可能になります。

デジタルツインの歴史

デジタルツインの発祥は、NASAのアポロ計画だといわれています。1970年代に月の探査に飛び立ったアポロ13号ですが、途中で酸素タンクが爆発するという事故に見舞われます。

このとき、NASAは地上でアポロ13号のレプリカを作成し、地球への帰還ルートをシミュレーションしました。レプリカによる再現で実際に起こり得ることを予測し、対策を講じるという点において、アポロ13号の事例は元祖デジタルツインという見方ができます。

時を経て、2017年にガートナー社がデジタルツインを戦略的テクノロジーの1つとして選定し、多くの人々に知られるようになりました。

シミュレーション・メタバースとの違い

デジタルツインと近い文脈で使われやすい「シミュレーション」「メタバース」という言葉について解説します。

シミュレーションとは?

シミュレーションとは、仮定を再現したモデルを使った分析のことを指します。そのため、広い意味ではデジタルツインもシミュレーションに含まれます。

ただし、デジタルツインはデータを用いて現実世界をリアルタイムに再現できる点で、より高度なシミュレーションといえるでしょう。

メタバースとは?

近年はメタバースという言葉もよく耳にするようになってきました。メタバースは、仮想的な空間で地理的に離れた人同士のコミュニケーションを可能にした技術のため、デジタルツインと似た概念といえます。

しかし、メタバースは人同士のコミュニケーションを活性化することが主目的です。そのため、必ずしも現実世界を忠実に再現する必要がない点で、デジタルツインとは異なる特徴を持ちます。

デジタルツインを構成する技術

デジタルツインの実現には、現実世界のデータを収集し、デジタル空間上で再現することが必要です。また、それらを高速で行う必要もあるでしょう。ここでは、デジタルツインを構成する技術を紹介します。

IoT

IoTとは「Interne of Things=モノのインターネット」と呼ばれる技術です。IoTはデジタルツインの基幹をなす技術といってもよいでしょう。

IoTの活用によってあらゆる「モノ」をインターネットに接続し、相互通信を可能にします。例えば、近年一般的になりつつある「IoT家電」は、インターネットを経由して稼働状況や消費電力の確認を遠隔で行える機器です。これは、家やオフィスのさまざまな場所に設置されたモノのデータをIoT技術で収集することにより実現しています。

IoTはデジタルにツインにおいても重要な役割を持ちます。現実世界の情報をデジタルで再現するためには、現実世界のデータを集める仕組みとしてIoTが必要なのです。

AI

デジタルツインにはIoT技術の他に、AIも重要な役割を果たします。IoTを使って現実世界から収集したデータは画像、文字、音声など多岐にわたります。これらのデータをそのままの形で業務に役立てることは難しいでしょう。

そこで求められるのが、大量のデータを処理し、分析と予測を可能にするAI技術です。近年はAI技術の発達が目覚ましく、画像や音声といった多様なデータを分析する技術が確立されています。

そのため、現実世界の事象をデジタルで再現できるケースが増え、デジタルツインの広がりに貢献しているのです。

5G

デジタルツインの実現には、5Gをはじめとした高速通信技術も重要な要素です。IoT技術で取り込んだ現実世界の情報をリアルタイムでデジタル空間に連携するためには、大容量かつ高速なネットワークが不可欠になります。

特に、高解像度の画像や動画などのデータをデジタルツイン上で再現したい場合は、リアルタイム性を確保するためにも高速なネットワークが必要になるでしょう。

デジタルツインで何ができるのか?

デジタルツインを用いて実現できる技術について紹介していきます。

生産現場での遠隔監視

工場をはじめとした生産現場では、機械の故障といったトラブルに備え、常に施設を監視する必要があります。その監視は現場からのレポートや、管理者が現地へおもむくことによって行われることも多いでしょう。

一方、工場全体がIoT化されていれば、センサーなどを通してリアルタイムで情報が集められるため、デジタルツインを使った遠隔監視が可能です。

機械の稼働状況や生産実績、作業員の行動といったあらゆる情報をIoTによって収集し、デジタル空間上で再現できれば、現場におもむいて監視する必要がなくなります。

また、生産現場にとっては逐一状況を報告する手間が省かれるため、本来の業務に集中できるでしょう。デジタルツインをうまく活用することで、生産現場の業務負荷を低減し、働き方改革につなげることもできるのです。

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3D空間での設計

ものづくりの世界においては、設計で品質や売上のほとんどが決まるといっても過言ではありません。設計はそれほどに重要な工程です。

従来の設計は紙の図面で行われていましたが、デジタルツインの技術が普及して以降は、3次元のデジタル空間で設計されるケースが増えています。完成品は3次元であるため、3次元で設計を行う方がより完成後のイメージをつかみつつ設計を進められます。

また、建設業界における設計でもデジタルツインが活用されています。建設業界では工事現場周辺の環境、地形などを踏まえた設計が求められます。その際、デジタルツインを使うことで周辺環境を3Dデータによって再現できるため、より高度な設計が行えるのです。

デジタル空間上での試験

先述の通り、デジタルツインはシミュレーションの一種です。そのため、デジタルツインを活用すれば、現実世界のデータを使ってデジタル空間上でさまざまなテストを行えるようになります。

分かりやすい例が、渋滞予測のシミュレーションです。渋滞を現実世界で再現することは困難ですが、道路や車両のデータから予測を立てることはできます。

また、昨今のコロナ禍においては、室内でウィルスがどのように拡散していくかのシミュレーションも行われています。現実世界では再現が難しい事象であっても、デジタルツインを活用することで広い分野でのシミュレーションが可能になるのです。

デジタルツインのメリット

ここからは、デジタルツインのメリットを紹介します。

コスト低減

デジタルツインで実現するメリットの1つは、コスト低減です。どのような分野であっても、シミュレーションを行う場合、再現するための環境を整備する必要があります。

例えば自動車産業では、市場に新車を出す前に何度も衝突実験を行います。衝突実験を行うためには専用の施設、実験用の車両、データを分析するチームの人件費など、多額のコストがかかります。

もしこのプロセスの一部をデジタルツイン上で実施できれば、大きなコスト削減効果が期待できるでしょう。

このように、現実世界で行っていたシミュレーションをデジタル空間に移すことで、物理的な制約から解き放たれ、大幅なコスト見直しが可能となります。

製造期間の短縮

デジタルツインを通じたシミュレーションを実施できれば、製造業における生産プロセスを短縮できるでしょう。

シミュレーションを全て現実世界で完結させようとした場合、手戻りが発生するたびに設計書の作り直しや環境の整備に時間を要し、開発のリードタイムが間延びしてしまいます。

設計業務を従来の紙ベースからデジタルツインに移すことで、図面を書き直すことなくさまざまな条件を試しながら設計を進められます。これにより、開発から完成までのリードタイム短縮が期待できます。

また、量産段階に入った後でも、生産ラインでの人員、配置変更が及ぼす影響をデジタルツイン上でシミュレーションすることで、生産のスピードアップにつながる可能性があります。

品質向上

デジタルツインによってさまざまな条件下でシミュレーションが行われることで、品質の向上にもつながります。

従来行われてきた現実世界でのシミュレーションでは、物理的な制約によって限られたテストケースしか実施できないことがありました。しかし、デジタル空間であれば現実世界のデータを反映しつつ、多種多様な条件を試せるため、テストの段階で不具合の芽を摘むことができます。

長期的に見れば、不具合発生による顧客からの信用失墜やリコールといったリスクを回避につながるのです。コスト低減、開発のスピードアップ、さらには品質向上までも期待できることがデジタルツインの強みといえるでしょう。

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デジタルツインの活用シーン

多くのメリットを持つデジタルツインは、活用シーンも多岐にわたります。ここではその一部の事例を紹介します。

製造業での活用事例

ある空調メーカーでは、デジタルツインを活用することで製造現場の設備保守に役立てています。工場内の製造設備にIoT機器を取り付け、そこから収集したデータを元に、各工程の状況をデジタル空間にリアルタイムで再現しています。

デジタルツイン導入前から生産状況のデータ取得は行っていましたが、加工作業中に発生する設備の異常や細かな作業遅延の情報は取得できないことが課題でした。しかし、リアルタイムでの再現を強みとするデジタルツインによって、加工作業中も異常があれば即時に検知できる仕組みを作り上げたのです。

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建設業での活用事例

建設業においても、デジタルツインの活用は広がっています。ある大手ゼネコンは高層ビルの建設において、完成したビルをデジタル空間に再現した上で工事を進めたのです。

従来、建設業でデジタルツインが活用されたとしても、建設機械の稼働状況をはじめとした一部の工程に留まるケースがほとんどでした。しかし、この事例では工事の全工程でデジタルツインを用いたシミュレーションを行ったことが大きな特徴です。

建設工事では周辺環境、工事の進捗など多くの条件が複雑に影響するため、効率よく工事を進めるためには精緻なシミュレーションを続ける必要があります。デジタルツインには、このような建設業のニーズにも応える力があるのです。

MaaS分野での活用事例

デジタルツインは、MaaS(Mobility as a Service)と呼ばれる移動や交通の分野での活用も進んでいます。例えばIoTを通じて3D地図や車両の位置データをリアルタイムで取得し、ある都市の渋滞状況を予測するといった活用事例が考えられます。

近年、自動車にはさまざまなソフトウェアやセンサーが搭載されるようになり、移動データに留まらず、社内環境や車両周辺の状態など多種多様なデータが取得できるようになっています。IoT技術の進歩に伴い、まさに宝の山ともいえる車両からのデータを活用したデジタルツインの事例が増えていくでしょう。

デジタルツインの将来性

多様な分野での活用が進むデジタルツインですが、今後はどのような広がりを見せるのでしょうか。ここからはデジタルツインの将来性について解説します。

デジタルツインの市場規模

海外市場調査レポートを提供する株式会社グローバルインフォメーションが発表したレポートによると、世界のデジタルツインの市場規模は2030年には約1,600億ドルに達するとされています。

その理由として、デジタルツインによるコスト削減効果を多くの企業が認識し始めたことと、デジタルツインによって生み出される各業界の課題に合わせたオーダーメイドのサービスへの需要が高まっていることがあげられます。

また、コロナ禍によって人と人が社会的距離をとった活動が求められるようになり、あらゆる業務をリモートで進める必要がでてきたことも、デジタルツインの広がりに影響しているでしょう。

分野を超えた活用へ

製造業、建設業といった分野ですでに広く活用されているデジタルツインですが、近年は産業分野に留まらず、都市計画といった公的な分野にも広がりを見せています。

実際に、都市を丸ごとデジタルツインで再現し、オープンデータとして提供する取り組みや、それによって社会的課題を解決しようとする動きが国内外で起こっています。

また、日本政府が掲げるSociety5.0(IoTやAIなどの技術を用いて、経済発展や社会的課題の解決を目指す社会)においても、仮想空間と現実空間が高度に融合した「超スマート社会」の実現にはデジタルツインの技術が必要とされています。

これまで産業界を中心に発展してきたデジタルツインですが、今後は官民連携での事例が増えていくでしょう。

まとめ

デジタルツインはシミュレーションの一種であり、現実世界で収集したデータをリアルタイムでデジタル空間に再現する技術です。

どのような分野であっても、現実世界でのシミュレーションには物理的な制約が伴います。そのため、デジタルツインのメリットはコスト低減、開発のリードタイム短縮、品質向上など多岐にわたります。

また、デジタルツインが活用される領域は製造業、建設業、MaaSと多様です。その用途も設計、テスト、異常検知とさまざまなものがあり、産業分野に留まらず都市計画といった公共分野にも広がりを見せています。

今回紹介した事例に留まらず、広い業界・業種で活用されるポテンシャルを秘めた技術であるデジタルツイン。IT分野に直接関わる人以外も、今後は何らかの形でデジタルツインに触れる機会が増えていくでしょう。

この記事を参考にデジタルツインについての基礎知識を押さえ、今後に役立てていただけると幸いです。

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